【週二連載】ニート考(1)

そもそも「ニート問題」とは

そもそも「ニート問題」とは何だろうか。ニートの存在は「なぜ、どのように」問題とされているのだろうか。さいきんは孤独(Solitary)かつ無職(Non-Employed)の人たち(Person)を指す「SNEP」という言葉も一部では注目されているようだけど、さしあたりどうでもいい。
ちなみに私のニート定義は厚生労働省のものとは劇的に異なっている。私の定義は「賃金労働をしていないすべての生物」とごくシンプルなもである(だからアメーバもニートになるし、赤ん坊もニートになるし、専業主婦もニートになるし、アルバイトをしていない大学生もニートになるし、ほとんどの年金受給者もニートになる)。だからこの地上ではニートの方が圧倒的に多いことになる。自分の労働力と引き換えに賃金を受け取っている生物はきわめて珍しい存在なのだ。まずはこの点をしっかり確認しておきたい。
私は、厚労省の「15~34歳の非労働力人口のうち~」といった定義にはつねに猛烈な違和感を覚える。「なぜ34歳まで?」というのも勿論あるが、そもそも「非労働力」という言い方がまったく気に食わない。「非常識」「非人情」「非科学的」といった言葉が示すように、「非」という接頭辞には「あるべきものがない」という意味が強い。つまり「非労働力」という言葉にはあきらかに、「労働力にもならねえ役立たず」といった含意がある。「普通の人間は生産労働をしていて当たり前」というこうした暴力的な決め付けに私はどこまでも反対したい。
もっともそんな「統治者(政府)の観点」になどいちいちケチをつけても始まらないのだ。あいつらなんて支出を減らして歳入を増やすことしかたぶん考えてないから。だが雨宮処凛がしばしば指摘しているように、世の中には「弱者」でありながら「統治者の論理」でしかものを考えられない人間が少なくないのだ。非正規労働者であるにもかかわらず「経営者目線」で会社のことを心配する人もいれば、あきらかに生活保護を受給したほうがいいのに「財務省目線」で国家財政のことを心配したりする人もいる。私はごくふつうのエゴイストだからこうした人々のことを理解するのに非常な困難を覚える。私は貧困にあえぐ人々が「私をじゅうぶんに食わせられないような社会や国家など滅茶苦茶になってしまえ」とテロリストにならないのが不思議なのだ。
ニートのなかには、「いい年して無職でいるのは良くないことだ」といった社会的価値規範を内面化させ過ぎている人が少なくない。そんなニートは自分のみならず他のニートに対してもつねに厳しい眼差しを向けたがる(余裕のなさは偏狭さにつながりやすい)。「弱者が弱者を憎む」というこうした傾向が「リベラル叩き」の背景にはある、と現在の私は考えている。これについてはまたいずれ詳しく考察したい。

「なぜ人はニートであってはいけないのか」「なぜニートを食わせなければならないのか」。さしあたり重要なのはこの二つの問いである。人は「生命維持のための労働」もしくは「カネを得るための労働」をほとんどつねに強いられている。だが人々は(私の見る限り)そのことに「大いなる不満」を感じようとはしていない。「もうウンザリだ」と考え込んだりもしない。人間を取り巻くこうした「不愉快な既成事実」にこそまずは「反逆」しなくてはいけない。巨大な「否」を突きつけなけばならない。これは時間の有り余っているニート以外には極めて難しい、根源的反逆である。こうした反逆が可能であることこそ「知性」の証明なのだ。ニートはニートでない者たちに代わって執拗に「思索」している(しなければならない)。「大いなる不満」を原動力にして。思索はそのまま格闘になる。日々格闘し続けることは実に大変なことだ。辛いことだ。苦しいことだ。しかも徒労に終わる可能性のほうがはるかに大きい。私などはもはや満身創痍である。私が「すべてのニートに賃金を」と主張している第一の理由はそこにある。ニートはあきらかに、「労働に時間を奪われ過ぎている人々」の分まで考えようとしているし、悩もうとしている。これだけボロボロになりながら生きているのだから、その生活を制度的に保障するのは当然である。それは「憐みによる施し」であってはならない。ニートを食わせるのはニートでない者の義務である。ニートにはニートとしての義務があり、ニートでない者にはニートでない者としての義務がある。
だからとうぜん、ニートでない者たちはニートを見下してはならない。ニートもニートでない者を見下してはならない。ニートとニートでない者は互いにリスペクトし合うべきだろう。ニートでない者はニートに対し、「いつも自分の代わりに悩み考えてくれて感謝する」とさりげなく伝えればいい。ニートはニートでない者に対し、「いつも自分の代わりに生産労働してくれて感謝する」とさりげなく伝えればいい。

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